【一口馬主ブログ】一口馬主の雑記帳

零細一口馬主のブログです。ロードサラブレッドオーナーズで2018年に一口馬主デビュー。2019年にユニオンに入会、2021年にインゼルにも入会しました。

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【創作モノ】2022年_フェブラリーステークス

その①

 昨年の覇者が2番人気とは。おかしいじゃないか。

 パドックで周回するカフェファラオを見ながら、俺は一人憤った。

 さらに目を凝らしてみるが、周回の気配だって悪くない。おかしくは見えない。普段はパドックを見ないから実はわからないが、贔屓目とはそんなものだ。

 それなのに、大型スクリーンに映し出されるカフェファラオのオッズは5倍前後をウロウロしている。

 ディフェンディングチャンピオンなんだぞ。カフェファラオは。

 俺は大きく息をつき、ムスッと頬を歪めた。観覧範囲が制限されたパドックに集まる人達をチラチラと見る。

 実に2年ぶりくらいに東京競馬場に足を運んだのはカフェファラオの連覇に立ち会うつもりだったのに、どうやら皆が皆、そのつもりということは無さそうだ。

 ソダシのぬいぐるみを抱いている人だっているし、隣のオッサンの新聞ではカフェファラオは×印をつけられているし、そもそもオッズが割れていることからもそれは明らかだ。

 まったく、皆、王者のプレッシャーがわかっていない。

 

その②

 ちょうど1年前のことになる。俺が高校で顧問をしている陸上部が駅伝大会で見事優勝を飾った。

 県大会やインターハイにも繋がらない市内の大会ではあったが、私立の強豪校が当たり前のように勝利をかっさらっていく通例行事のような大会を、小さな公立校が勝ったのだから快挙である。卒業間近の3年生はもちろん、2年生と1年生の含めた皆の頑張りが光った勝利だった。

 顧問として誇らしかったし、この優勝が生徒らの自信につながってほしいと心から思ったのを今でも覚えている。

 だが、栄光は一瞬だった。そこから1年、どの大会も連戦連敗した。個人戦のトラックの多くでも生徒たちは惜敗し、苦難の1年を過ごしてきた。

 陸上は速さを競う競技なのに、どこか重荷を背負っているような、そんな走りをみるのは正直、顧問としてきつかった。

 特に悔しかったのは秋季大会後に行われた駅伝大会だ。夏を超え、パワーアップした3年生と2年生に新入生を加えたベストメンバーの布陣で挑んだにも関わらず、入着すら出来なかった。

 「冬に東高はマグレ勝ちしたからな」なんてことを事も無げに言う他校の声を聞いた時は歯ぎしりする想いだった。

 言ったのは顔も知らない他校の生徒だったが、あのセリフを聞いた生徒達はどれだけ悔しかったことか。

 人生、負けることのほうが多い。そんなことは大人である自分はわかっている。それは子供達に教えなくてはならない。努力すれば、全て勝ちぬけるなんてわけがない。それは嘘だ。

 ただ、それと同じくらい、負けることに慣れ過ぎてはいけないと子供達には教えたい。

 それに加えて、もし叶うのならば、負けるかもしれなくても、挑まなくてはならない時があることも伝えたいと思う。それこそジャンプの主人公じゃないけれども、勝てないことは戦わない理由にはならないのだ。

 だから俺は今年も駅伝大会にエントリーをした。明日、生徒たちは再び、優勝を目指して走る。1年間負け続けたディフェンディングチャンピオンとして。

 

その③

 パドックの後、馬場入りを見ようと、俺は大型スクリーンのほうへと移動した。

 冬の府中開催は透き通った青い空の元行われることが多いが、今日は天気はあまり良くはなかった。ダートは稍重、いや重だろうか。ハイペースの激しい展開となりそうな予感がした。

 そんな空模様の中、1頭、また1頭と本場馬入場が始まる。マスク姿の観衆が歓声に代えて拍手をおくっていく。カフェファラオが入場した時は当然俺も大きな拍手を送った。

 でも、拍手の量はそれほどでもなかった。一番多かったのはアイドルホースのソダシだろうか。ここでも少し憤りを感じた。何度も言うが、近走は良くないとはいえ、カフェファラオは昨年の王者だというのに。

 たまたま隣にいた40歳くらいのオッサンなんて、テイエムサウスダンが入場した時にひと際大きな拍手を送っていた。タンバリンを叩くお猿のオモチャが具現化したような仕草。しかも、なぜか涙ぐんでいるように見えた。余程思い入れがあるのだろうか。

 悪い人ではなさそうだが、少し距離を取った。

 大型スクリーンにダート界の駿馬達が映し出される。自然と目はカフェファラオを追っていた。カフェファラオもいま、重荷を背負っているのだろうか。明日の駅伝を控えた俺の生徒たちのように。

 買っていたカフェファラオの単勝馬券が入った財布をグッと握りしめた。信じる神などいないが、祈るしかない。

 ゲートが開く。外枠にいたピンク色の帽子が先手を奪っていく。距離を取ったはずのオッサンのほうから「よし」なんて遠慮がちだが、しっかりとした声が聞こえたからテイエムサウスダンだとすぐわかった。

 脚抜きが悪くない馬場の中、前目前目に付ける展開。カフェファラオは道中4番手に付けていた。スムーズな走りだと思った。優等生で、そつがない。

 いや、違う。

 3、4コーナーを回ったところで俺は自分の誤りに気が付いた。鞍上の手さばきに促されて加速したカフェファラオの走りは荒々しさがあった。内側を走るソダシに並びかける時など、待ち切れない仕草をしていた。

 直線になって入ってからはその荒々しさはさらに増した。坂を上がりながらソダシを躱す。そして、前を走るテイエムサウスダンを捉えると、粘る相手をねじ伏せるように先頭に躍り出た。ついてこれる馬はいなかった。

 ゾワッと二の腕に鳥肌が立った。次いで首筋にそれが伝播する。厚着をしてきたはずなのに、俺は身体を震わせた。

 連覇を達成。王者の復権。アッサリとした言葉で繋げば、それだけだろう。それ以外の言葉などいらないほどの完勝だ。

 掲示板はすんなりと点灯し、引き上げてくる馬とジョッキー達に観衆から拍手が沸き起こる。

 俺も拍手を送った。声に出せない分、しっかりと想いを乗せて。

 明日、生徒たちが走る時、沿道で同じように拍手を送ろうと思った。

 生徒たちはカフェファラオにはなれないかもしれない。でも、王者として挑む生徒らはきっと、他校の生徒たちでは得られないものを得るはずだ。そのことを誰よりも讃えてやりたい。

 そして、駅伝が終わったら、労いに暖かいラーメンでも奢ってやろう。

 安月給の教員だが、全員分くらいどうってことない。原資は今日、カフェファラオが稼いでくれた。